2022-10-30 (Sun)
09:03
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アイヒマン実験が証明した服従の心理
人間が集団を構成することにはメリットがあります。
社会の成立もそうした集団生活と切り離して考えることは困難です。
集団を作っていく時、多くの場合は中心となる人物や触媒になる人物が存在します。
このようなリーダー的な人物が集団の構成員を制御するというやり方が取られてきました。
また、日本のような社会では、中心者よりも顔の見えない全体の意思、いわゆる「空気」が構成員の行動を制御しています。
その仕組みが経済活動に活かされているのが会社や組合であり、軍事面での展開が軍隊になります。
ここで大きな問題になるのは、集団としての意思決定が構成員の一人である個人の意思と大きくズレてしまうことです。
自分だけに関わる意思決定であれば、自分が正しいと思うことをすればいいですが、集団になるとそうはできません。
集団になると同調圧力によって自分では、決してやらないであろう意思決定をしてしまうことがあります。
個人としては、愚かな行為だと考えている行動であっても集団の構成員になると選んでしまう可能性があると言うことです。
これを示す実験として有名なのが、米イェール大学の心理学者ミルグラムが1963年に発表した、アイヒマン実験と呼ばれるものです。
アイヒマンとは、ナチス・ドイツのホロコーストにおいてユダヤ人の強制収容所への大量移送を指揮した将校で、裁判では「ただ命令に従っただけ」と抗弁しましたが、結局絞首刑となりました。
実験に、ただ命令を従うだけでそのうような残酷な行動が可能なのか、ミルグラムの実験とは、その疑問を解き明かすものでした。
内容を簡単に説明します。
白衣をまとって権威者とした実験者、電気ショック装置につながれた生徒役(サクラの被験者)、そして本物の被験者の三者がいます。
実験者は、体罰を与えることが学習効果にどうつながるかを測定するという名目で、本物の被験者に教師役として手伝うように命じます。
本物の被験者は、電気ショック装置が偽物であること、そこに繋がれている生徒役の被験者がサクラであることは知りません。
教師役(本物の被験者)は、生徒役(サクラの被験者)に問題を出して、生徒役が問題の解答を間違う度に装置のボタンを押して電気ショックを与えるように命じられます。
ボタンには、流れる電圧が示されていて、ある電圧以上になると人名が危険であることがマークによって表示されています。
電気ショックを受け苦しそうな状況を演じるサクラが、それでも大丈夫と振る舞い、実験者が高圧的な態度で「もっと強い電圧を与えることがあなたの仕事だ」と迫ると、命の危険があると認識しながらも、3分の2前後の被験者が最大電圧までボタンを押したのです。
サクラが叫び、のたうち回っているにも関わらず、自分の意志ではなく実験者の意思に従ってしまったのです。
この実験を日本で行った場合、ボタンを押す人の比率がさらに上がるかもしれません。
日本では、個人の意思が集団の意思決定による曲げられてしまうことは、企業に属している人であれば誰もが感じているのではないでしょうか。
企業でなくても学校、クラス、部活動、サークル、友人関係でも感じる場面は、どこにでもあると思います。
当事者ではない私たちは、酷い話しだ、意思表示できない連中だと思うかもしれません。
しかし、アイヒマン実験の結果は、一定の状況に置かれた場合、多くの人が集団の意思を優先させ、それが集団内では賢明と考えてしまうということを示しているのです。
日本が戦争をしている間「贅沢は敵だ」と言うスローガンに抵抗して贅沢をして他人に見せつけた人がいたでしょうか。
戦争に行くことが当たり前であり名誉だった時代に「戦争はよくない」「私は行かない」と叫んだ人が一体どれだけいたでしょうか。
良し悪しなんて関係なく、大半は集団に同調したわけなのです。
これは、コロナ騒動と似ていると思います。
そして、そのどちらかが愚かなのかは、視点の置き方によって変わってしまいます。
戦時中の集団から見れば悦脱することが愚かですし、今、平和な世の中で戦争は悪いことだ、戦前の日本人は悪だと考えている人であれば、悦脱しない人こそ愚かだと思うことでしょう。
時代や状況によってどちらも愚かになり、集団の意思ちうのは個人ではどうすることもできないと言えます。
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